沖守弘(おき もりひろ)氏は1929年(昭和4年)に京都で生まれ、近畿大学在学中から写真家として頭角を現し、1950年代から70年代にかけて日本国内の社会的テーマを題材にした報道写真家として活躍しました。その後沖氏はインドの人口問題に関心を持ち渡印、1974年からマザー・テレサの知己を得て、彼女の活動を紹介する写真を発表し、世界的にも有名となります。マザー・テレサの取材のかたわら、沖氏はインド各地を旅行し、次第にインドの多様な祭礼や芸能、工芸に関心をもつようになり、1977年から1996年までの20年間にのべ70回あまりインドやネパールの各地を訪問して写真を撮影し続けました。これらの写真の一部は、写真展や数冊の写真集として発表されています。またインドをテーマとした沖氏の写真は、氏の所属する二科会の展覧会でも何度か入賞しているほか、国立民族学博物館友の会の機関誌『季刊 民族学』の誌面を何度も飾っています。写真家として長年にわたり精力的に幅広く活動を続けてこられた沖氏ですが、2018年4月多くの人びとに惜しまれながら永眠されました。
 国立民族学博物館は、沖氏の依頼を受け、氏が撮影してこられたインド・ネパールに関する貴重な写真約2万点を2013年に一括して受け入れて保存する一方、そのデジタル化を進めてきました。このデータベースでは、民族学博物館を中心とする南アジア研究者が沖氏への聞き取りも参考にしつつ写真情報を分析、整理して、受け入れた写真の全容を紹介しています。なお、デジタル化とデータベース作成にあたっては、人間文化研究機構「現代インド地域研究」プロジェクト経費の一部も活用しています。
 撮影当時、被写体となった方がたに肖像権があるという考えは、まだ一般的でありませんでした。そのため、このデータベースにおける人物写真は、必ずしもご本人から公開の許諾が得られていません。また、写真情報は、できる限り撮影地、撮影年、撮影対象について詳細を明らかにするよう努めましたが、不完全な部分も残っています。被写体の人物や、写真情報につきましてお気づきの点がありましたら、こちらよりご連絡頂ければ幸いです。必要に応じて逐次改訂を加えてゆきたいと考えています。
 沖氏自身は写真1枚1枚の撮影日時を記録していたわけではありません。しかし、撮影後の出来るだけ早い時期にマウントつきのスライドを作成しており、そのマウントにマウント制作時の年と月が打刻されていることから、撮影の時期を推測することは可能です。このデータベースの「撮影年月」情報は、マウントに打刻されている年と月を意味します。必ずしも、実際にその写真が撮影された年月とは限りません。あくまで写真が撮影された大まかな時期を推測するための参考としてお考え下さい。また「撮影年月」情報がないものは、マウントが、マウントそのものの劣化などの事情によって作り変えられていて、その制作年月の打刻がなく、従って撮影時期の推測が出来ないものです。
 沖氏がインドで撮影活動を続けられていた時期、特に1980年代半ばまでは日本の旅行者や研究者がインドを訪れる機会も限られていた上、沖氏が撮影に訪れた場所の中には現在でもアクセスが難しいところも含まれています。また現在では目にすることが難しくなった芸能、工芸、建築物なども撮影されています。私たちはこのデータベースを教育及び学術的な利用のために公開し、写真の現地への還元、現地情報の交換や更新、インド・ネパールの社会や文化の理解の進展などに貢献したいと願っています。
(解説:三尾 稔)